和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2024年05月17日(金)

「ルール守れない人は乗らないで」電動キックボードLUUPへの“厳しい目”強化の意図は? 事業者の苦渋と専門家の見解は

街で見かけることが多くなった電動キックボード、ユーザー/非ユーザーめぐる現状とは
街で見かけることが多くなった電動キックボード、ユーザー/非ユーザーめぐる現状とは
 電動マイクロモビリティのシェアサービスを展開する株式会社Luupが、「春の全国交通安全運動」に合わせ、東京・SHIBUYA109渋谷店の店頭イベントスペースに「ルールやマナーを守らない人は、LUUPにも乗らないでください」と大きく書かれた啓発広告を掲出した。電動キックボードの利用違反者が増えており、SNSでも安全面や利用者のマナーについて様々な意見が散見される。批判的な目も向けられている中、同社がこのようなワードを使い広告を出した真意とは? 事業者であるLuupと交通工学が専門の東海大学・鈴木美緒准教授に、電動キックボードを巡る現状についてそれぞれの見解を聞いた。

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■「こんな広告ムダ」批判の声は想定内 “厳しい目”の喚起に期待

 昨今、電動キックボードの危険走行に対する社会の目が厳しくなっており、令和6年度「春の全国交通安全運動」の推進要綱では「自転車・電動キックボード等利用時のヘルメット着用と交通ルールの遵守」が全国重点の1つに置かれた。前述の啓発広告はそのタイミングに合わせて利用者に注意を促した形だが、サービス事業者が「乗らないでください」と言い切るのは機会損失にもなりかねない異例の事態と言えるだろう。

 一方でXには「そもそもルールを守らないやつには何を言っても届かない」「こんな広告ムダだ」といった辛辣な声もあった。Luup側はこのXの意見をどう受け止めるのか。

「それも一定の事実かもしれません。だからこそ今回の啓発広告は、LUUPで交通違反をする方々に対して厳しい目を向けていただきたい、そういった方々は厳しい目が向けられていることを自覚いただきたい、という思いを込めました。LUUPでは、電動キックボードの利用前には年齢確認書類の提出と警察庁監修の交通ルールテストの連続満点合格を義務付けており、LUUPユーザーの大半は正しくご利用いただいています。ところが一部の違反者がクローズアップされるがために、正しく利用している方が肩身の狭い思いをされているのではないか。社会からの厳しい目があるということを知っていただくことで、違反は減っていくのではないかと思います」(株式会社Luup・池上翔氏)

 本来、事業者側が「厳しく見て」と宣言するのはあまり聞かない話だが、現状に鑑みるとそうせざるを得ない状況と言えるだろう。ただ、電動キックボードに限らず、どんな乗り物も最終的には乗る側の安全意識や倫理観に委ねられるところは大きい。それに対して事業者がどこまで責任を負うべきかは悩ましい問題だ。

「その前提はあれど、電動キックボードという新しい乗り物を扱う事業者として安全啓発の責任はあると感じています。さまざまな取り組みの中でも最も厳しいものとして、重大な交通違反をした利用者については把握次第、アカウント凍結の対応をしております。そうしたアカウントを増やさないためにも、ユーザー/非ユーザーがLUUPの間違った使い方を容認しない社会機運を醸成したい。それにより街の交通安全、ひいては電動マイクロモビリティへの理解へと繋げたいと考えています。その上で改めて、正しく利用されない方には『乗っていただきたくない』と強く訴えます」(株式会社Luup・池上翔氏)

■“ほぼ自転車扱い”となった電動キックボード、意図せぬ交通違反が増加?

 昨年7月の改正道路交通法の施行で、“特定小型原動機付自転車”という新たな車両区分が追加され、16歳以上の年齢制限はあれど“ほぼ自転車扱い”となった電動キックボード。以後、交通違反の検挙数は施行前後の半年で約5倍となっており、警察庁では「利用者増加と取り締まり強化で検挙が増えた」と見ている。

だが、交通工学が専門の東海大学・鈴木美緒准教授は「ライド数と違反者数が比例するのは事実。しかし何より問題は電動キックボードに関する交通ルールが周知徹底されていないこと」だという。

「電動キックボードの検挙で最も多いのが、歩道乗り上げをはじめとする“通行区分違反”です。『電動キックボードは歩道も走行できる』と誤認識されている方もいますが、厳密には『6km/hモードが搭載された車両のみ』かつ『6km/hモード制限下』かつ『特定の標識・表示のある一部歩道』かつ『歩道の車道側』に限って特例的に走行が認められています。検挙された人の中にはこのルールを知らず、意図せず交通違反をしていた事例も多かったと思われます」(鈴木准教授)

 なお上記のルールは自転車にも同様に課せられている。そのほか電動車椅子やシニアカーといった電動モビリティ全般に、歩道を走行する際には「最高時速6km/h」の制限がある。これは人間の早歩き程度の速度で、万が一、歩行者がふらつくなどした場合にもよけられるペースだ。

「“ほぼ自転車扱い”となったことにより、自転車と同じ感覚で電動キックボードを利用する方が増えたと感じます。ただし電動キックボードは人力で漕ぐ自転車とは異なり、速度モードが設定できます。たとえばLUUPの電動キックボードには20km/hモードがありますが、この設定で歩道を走行するのは交通違反です。また市販の電動キックボードの中には最高速度20km/hを超える車両もあります。これらは特定小型原付ではなく、原付バイクなどと同様に運転免許やヘルメット着用等の義務がありますし、歩道の走行も厳しく禁止されています」(鈴木准教授)

 こうした多様な車両が一括りに“電動キックボード”として語られ、「ごっちゃになっている方も多い」と鈴木准教授。さらに「免許不要」「ヘルメット着用の努力義務」「6km/hモードで一部歩道の走行が可能」といった法整備がされたことで、交通ルールの周知徹底が未完全のままにたちまち電動キックボードの利用者が街に増えた。

■自転車と電動キックボード、ルールの境界線の曖昧さ

 一方で自転車は長らく街の風景に溶け込んできた。あらゆる歩道を徐行せず走行していても、厳密には交通違反だが、よほどの危険走行でない限り目くじらを立てる人も少ないだろう。

「自転車の軽微な交通違反はほとんど検挙されていません。たとえばあまり知られていませんが、自転車が歩行者に対してベルを鳴らす行為は道路交通法第54条違反です。自転車が歩道を走行していても重大な事故が起きない限り、歩行者も自転車もなんとなくの“緩やかな相互理解”のもとやり過ごしてきたのが実情だと思われます」(鈴木准教授)

 ただし近年は自転車の危険走行も問題視されており、2026年には自転車の交通違反に対する反則金制度(青切符)が導入される。以降は取り締まりが強化され、電動キックボード同様に検挙者数も増加することも予想される。

 自転車も電動キックボードもユーザーにとっては便利な乗り物。非ユーザーにとっては危険な乗り物。そうした分断が起きているのが現状だ。とは言え、「自転車を廃止しろ」という声は起きない。一部「自転車の免許制」を求める動きはあるものの、鈴木准教授は「幅広い世代の実生活に溶け込んでいるため、実行可能性は低いだろう」という。では、いまだ実生活に溶け込んでいるとは言えない電動キックボードは有用なのか否か。

「正しく利用すれば移動手段の選択肢が広がる有用な乗り物だと思われます。現在は都市部で普及が進んでいますが、むしろバス路線が廃止されるなど、移動難民、買い物難民が増えている地方での活用に大いに期待したいところです。一方、都市部では自動車移動が減らせることで環境保全に。またシェアサイクル化の促進によって駐輪場が減り、ひいては都市空間の有効活用にも繋がります。ただ、いずれにしても『電動キックボードは長距離移動に適した乗り物ではない』ことは認識しておくべきです」(鈴木准教授)

 では、自転車よりも電動キックボードが優位だと言える点はあるのか。これに対して鈴木准教授は「何よりも人力を使わずに移動できることだろう」だという。

■すべての電動マイクロモビリティが共存できる社会になるには

 LUUPではこの4月に京都の訪問介護事業者との提携を発表。同社の提供する電動キックボードなどを活用した訪問介護の効率化のための取り組みを実施する。

「当該の訪問介護事業者では、これまで自動車やバイクなどで利用者さま宅に訪問して来られました。訪問介護は非常に体力を使う仕事であり、移動も多いため、自転車では『辛い』『疲れる』。そのため採用には運転免許を持っている方に限定されるという課題を抱えておられました。また利用者さま宅の近隣に駐輪場や駐車場がなく、支援を断らざるを得ないケースもあったと聞きます。そうした介護現場の課題解決の一助として、LUUPをご活用いただく運びとなりました」(Luup・池上氏)

 これは1例だが、電動キックボードを必要とする事情はさまざまありそうだ。ところがLuupの池上氏は「必ずしも電動キックボードである必要はない」という。

「Luupのミッションは『街じゅうを「駅前化」する』ことであり、『日本中のすべての人が移動に困らない社会』を目指しています。そのために推進しているのは電動キックボードそのものではなく、ポート(駐輪場)の普及拡大です。現状はさまざま勘案して電動キックボードを採用していますが、今後は特定小型原付の仕様を満たす新たな形状の電動マイクロモビリティ──たとえば高齢者、体に障害のある方などに適した3〜4輪の車両が開発されることも考えられます。自動運転の技術がそこに加われば、さらに利用可能性が広がるはずです」(Luup・池上氏)

 歩行者、自動車、自転車、そして多様な電動マイクロモビリティ。それらが安全に共存できる理想的な社会は実現するのか、最後に鈴木准教授の見解を聞いた。

「今はまだ過渡期だと思われます。日本の道路は電動マイクロモビリティが走行することを前提としてデザインされていません。国が推進する以上は『ここを走れば安全ですよ』とメッセージするような道路の整備は必須です。昨今、増え続ける自転車走行レーンももう少し安全面を考慮していただきたい。加えて交通ルールも誰もがわかりやすく、守りやすい工夫をしていただきたいですね」(鈴木准教授)

 市民の命と暮らしを守るのは行政の義務。そのために法律や道路が整備され、そのルールに則ることで安全が確保されるのが行政と市民の適切な関係だ。移動の選択肢がこれ以上狭められないよう、交通デザインの成熟を期待したい。

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提供:oricon news